書籍『ファスト&スロー』で考える:家庭と人間関係に必要な“思考のバランス”
夫婦の会話がギクシャクしてしまう…
「気をつけてるのに、なんで伝わらないんだろう?」
そんなふうに感じたことはありませんか?
もしかしたら、それは「考え方の使い方」に原因があるのかもしれません。
ノーベル賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンの名著『ファスト&スロー』をヒントに、“夫婦関係をよくする思考のバランス”について考えてみました。
「家庭って、もっと気持ちよく回らないのかな?」
そんなことを考えていたときに、私はダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』と出会いました。
この本を読んで、「あ、家庭や人間関係にも“思考の使い方”にコツがあるんだ」と腑に落ちたんです。
この記事は、『ファスト&スロー』を読んで得た考え方を自分なりに応用し、夫婦間を見直すヒントになったという、私自身の体験をもとに書いたものです。
なお、『ファスト&スロー』は人間関係について書かれた本ではありません。
それでも、そこにある「思考のしくみ」を知ることで、家庭やパートナーとの向き合い方が少しずつ変わっていきました。
書籍の紹介
この本では、人間の思考は次の2つの「システム」によって動いていると説明されます:
- システム1(速い思考):直感的・感情的・すばやい判断。自動的に働く。
- システム2(遅い思考):論理的・熟考的・慎重な判断。エネルギーを使う。
脳はサボるのが好き──これがシステム1とシステム2の関係を象徴するキーワードです。
システム2のように論理的に考えるにはエネルギーが必要なため、私たちの脳はつい楽で速いシステム1に頼りたがるのです。
私たちは「合理的に考えている」と思いがちですが、実際には多くの判断がシステム1による“思い込み”や“バイアス”に影響されています。カーネマンはこのことを、実験や事例を交えながらわかりやすく解説しています。
ダニエル・カーネマンとは
著者のダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)はイスラエル出身の心理学者であり、2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。
彼の受賞は、従来の「人は合理的に意思決定する」という経済学の前提を覆した研究によるもので、同じく心理学者のエイモス・トヴェルスキーとともに提唱した「プロスペクト理論」が大きな評価を受けました。この理論は、人間の非合理的な判断パターンを明らかにしたもので、行動経済学という新たな分野を切り開いた先駆的な業績です。
世界的ベストセラー:発行部数260万部超
『ファスト&スロー(原題:Thinking, Fast and Slow)』は、2011年の刊行以来、世界的ベストセラーとなり、発行部数は260万部を超えています。
本書は専門書でありながら一般読者にも広く読まれ、ビジネスや教育、医療、政策など幅広い分野で引用されるなど、大きな影響を与え続けています。
◆ 家庭こそ“システム1”で回したい空間
家庭は、何よりも安心して過ごせる場所であるべきだと思います。
そのためには、「気をつかって行動する関係」よりも、自然に動ける関係──つまり“考えずにできる”信頼関係があることが大切です。
『ファスト&スロー』でも語られるように、人の脳には2つの思考システムがあります。エネルギーを多く消費する論理的なシステム2よりも、私たちの脳は楽で直感的なシステム1に頼る傾向があります。言いかえれば、脳はできるだけ“考えずに済ませたい”のです。
だからこそ、家庭という空間では、「いちいち考えなくても自然に通じ合える」ことが、居心地のよさにつながるのではないでしょうか。
たとえば──
- 「ありがとう」と言わなくても気持ちが伝わる
- 疲れているときは、そっとしておいてくれる
- 小さな思いやりを、無意識のうちに交わせる
そんな“阿吽の呼吸”がある家庭は、まるで信頼し合って連携できるスポーツチームのよう。
言葉がなくても、お互いの動きや気持ちを察して、自然とフォローし合える関係です。
家庭においては、「考えずに安心していられること」こそが、長く続く関係の土台になるのだと感じています。
◆ 無駄にシステム2を使わせない優しさ
夫婦や家族のあいだで、ちょっとしたすれ違いが起きると、
相手が「今の言葉、どういう意味だったんだろう?」と必要以上に考え込んでしまうことがあります。
これは、まさに脳の「システム2」が余計に働いてしまっている状態。
本来、安心できるはずの家庭で、脳がわざわざエネルギーを使ってしまっているのです。
こうした状態は、言い換えれば思いやりが届いていないサインかもしれません。
「何も考えずに自然体で過ごせる」空間を保つためには、自分の言葉や態度が、相手に“無用な思考”を強いていないかに目を向ける必要があります。
相手の表情や反応を見て、意図がきちんと伝わっているかを感じ取ること。
もしズレを感じたら、こちらから言い回しを和らげたり、伝え方を変えてみる──そうした柔軟さが関係を整えていきます。
大切なのは、「正しさ」を押しつけない姿勢。
マウントを取るのではなく、相手が受け取りやすい形でパスを出すことです。
スポーツにたとえるなら、「パスの出し方」に似ています。
いくら正しいパスでも、受け手が反応できなければ、チームプレイにはなりません。
大事なのは、その意図が“共有される”かどうか──家庭もまた、そうした連携が求められる場なのです。
◆ 自由と規則のバランスは、思考のバランス
ここで大切なのが、「自由と規則のバランス」です。
- 自由とは、自分で考えて選ぶこと=システム2
- 規則とは、考えずに自然と動けること=システム1
スポーツで例えると、選手はルールの中で直感的にプレーします(システム1)。
一方で、ルールの範囲内で戦略や作戦を立てることもできます(システム2)。この両立が楽しさや成果につながります。
戦略や連携プレーはシステム2で考え、繰り返し練習することで無意識に動けるようになります(システム1)。
家庭も同じです。まずはシステム1で自然に動けるようなルールをつくること。
そして、新たに生じた課題にはシステム2で対策を考え、それをまた習慣(システム1)として落とし込んでいく。
ポイントは、完璧でなくてもいい。「考えずに動ける」システム1として成立する範囲のルールにしておくことです。
先日ラジオで、「若者の宗教離れ」についてこんな話を耳にしました。
「宗教を中心とした秩序が、もはや必要とされなくなったのではないか?」という意見でした。
私はこの話を聞いて、「自由と規則のバランスは、思考のバランス」を感じました。
もしかすると、私たちの社会はすでに規則や制度があふれすぎていて、宗教という“ルール”まで抱える余裕がなくなっているのかもしれません。
◆ 私が実践したこと:自分の意見を手放すこと
『ファスト&スロー』を読んで、私はひとつの問いに向き合いました。
「自分の意見は、本当に正しいのだろうか?」
この本では、心理学の専門家でさえ、自分のバイアスや思い込みに気づけないことがあると書かれています。
であれば──私の判断や信念にも、当然偏りが混ざっているはずです。
そう確信したとき、私は初めて
「自分の意見を手放す」ことができたのだと思います。
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